鍼灸院M&Aの売却相場の目安と算出方法
鍼灸院M&Aの売却相場と譲渡価格の算出方法
小規模な鍼灸院の売却相場は、営業利益の1.4〜2.5倍程度が一つの目安とされ、金額ベースでは200万円〜1,000万円程度に収まるケースが多く見られます。ただしこれはあくまで目安であり、最終価格は買い手との交渉で決まります。
年買法(年倍法)による計算の考え方
スモールM&Aで最もよく使われるのが、時価純資産に営業利益の数年分を上乗せする「年買法」です。
譲渡価格 = 時価純資産(設備・内装などの時価評価 − 負債) + 営業利益 × 1.4〜2.5年分
ここでいう営業利益は、決算書の数字そのままではなく「実態営業利益」に引き直します。オーナーの役員報酬のうち相場を超える部分、事業と関係の薄い保険料や車両費、家族への過大な給与などを足し戻し、逆に買い手が新たに負担する人件費(院長の後任を雇う費用など)は差し引いて算出します。
規模別の価格イメージ
| 院の規模・状態 | 実態営業利益の目安 | 価格レンジの目安 | 評価されやすい要素 |
|---|---|---|---|
| 院長1人・自宅兼用の小規模院 | 〜100万円程度 | 〜200万円前後、または無償〜資産相当 | 立地、設備、賃貸借契約の条件 |
| 院長+スタッフ1〜2名 | 100〜300万円程度 | 200〜600万円程度 | 有資格者の残留、リピート患者数 |
| スタッフ3名以上・仕組み化が進んだ院 | 300〜500万円程度 | 500〜1,000万円程度 | 属人性の低さ、マニュアル、自由診療比率 |
| 複数店舗を法人運営 | 500万円超 | 1,000万円以上も想定 | 店舗展開の再現性、管理体制 |
赤字・低収益でも値段が付くケース
営業利益が出ていなくても、売れないとは限りません。買い手が「立地」「内装設備」「在籍する鍼灸師」「患者リスト」のいずれかに価値を見出せば、時価純資産ベースでの譲渡や、初期投資の削減効果を評価した価格が提示されることがあります。実際、赤字院でも有資格者の確保や好立地を理由に成約した事例は少なくありません。
2026年の療養費改定が評価に与える影響
2026年の療養費改定が実施され、保険診療を主軸とする鍼灸院の収益モデルは見直しを迫られています。買い手は将来キャッシュフローを前提に価格を出すため、自由診療の比率が高く、制度変更の影響を受けにくい院ほど高く評価される傾向が強まっています。
逆に、保険診療への依存度が高い院は、改定後の実績が数か月分しかない段階だと「この売上は続くのか」を買い手が判断できず、価格が保守的になりがちです。改定後の月次推移を整理し、客単価や自費メニューへの移行状況を説明できる資料を準備しておくことが、価格交渉の説得力を左右します。
譲渡価格を左右する評価ポイントと事前準備
鍼灸院M&Aで買い手が最も重視するのは「院長がいなくなっても、売上が続くか」の一点に集約されます。つまり、属人性をどれだけ排除できているかが、そのまま企業価値評価に直結します。
評価が上がる要素・下がる要素
| 評価が上がる要素 | 評価が下がる要素 |
|---|---|
| 院長以外の鍼灸師が売上の一定割合を担っている | 売上の大半が院長個人の指名で成り立っている |
| 施術手順・問診票・カルテ記載がマニュアル化されている | 施術内容が施術者ごとにバラバラで再現できない |
| 予約・カルテがシステム化され、データで把握できる | 紙カルテ中心で患者動向が数値化できない |
| リピート率・来院サイクルが安定している | 新規依存が強く、リピートが定着していない |
| 自由診療メニューが確立し、単価が安定している | 保険診療への依存度が高い |
| スタッフの雇用契約・就業規則が整備されている | 雇用契約書がない、残業代の扱いが曖昧 |
| 賃貸借契約の残存期間が長く、譲渡の承諾が得やすい | 契約更新が近い、オーナーが譲渡に難色を示す |
属人性を下げるために今日からできる準備
売却を思い立ってすぐ高値が付くわけではありません。準備期間を半年〜1年とって以下を進めるだけでも、提示される価格と成約可能性は変わります。
- 指名の分散:院長指名の患者を、段階的に他の施術者とのペア施術へ移行し、指名比率を記録しておく。
- 施術の標準化:主訴別の施術パターン、使用する鍼の太さや置鍼時間、検査手順を文書化する。
- 数値の可視化:月次の新規数・リピート率・客単価・自費比率・施術者別売上を、最低24か月分そろえる。
- 労務の整備:雇用契約書、就業規則、タイムカード、残業代の計算根拠を整える。未払い残業代は価格減額の典型的な要因です。
- 私費と事業費の分離:個人的な支出が経費に混ざっていると、実態利益の説明に時間がかかり、不信感にもつながります。
売却前セルフチェックリスト
以下のうち該当項目が多いほど、M&Aの準備が整っていると判断できます。
- 直近3期分の確定申告書・決算書がそろっている
- 月次試算表を毎月作成している
- 患者リスト(来院履歴付き)をデータで出力できる
- 未消化の回数券・前売りチケットの残高を即座に算出できる
- スタッフ全員分の雇用契約書がある
- テナントの賃貸借契約書と、譲渡に関する条項を確認済み
- 保健所への開設届の控えが保管されている
- 保険診療を行う場合、同意書の取得・更新履歴が整理されている
- 設備・機器のリース契約の残債と契約条件を把握している